鎖
噫、麗しの我が君、御身を飾る鈍色に手を伸べて跪く我を ・・・舐めて。
僕には装身具を身につける習慣がない。
だから服を脱ぐときにはそれにいくらかの注意を払わなければならないなんてことには思い至らなくて、しかし、そういうのを抜きにしても今日の僕に余裕がなかったのは事実。
行為の一時中断を受けてもヤる気を失わない股間が何より語る。あ、と呆けた声を出したきり、腹の上を滑り落ちた『それ』をぼんやりと見つめる先輩は、半端に脱がされかけた服を額に引っ掛けたまま、バンザイの体勢。一刻も早く剥ぎ取るべくしてお手伝いしていた指が、カカシ先輩の首にかかる認識票の鎖を乱暴に引きちぎってしまった。
「う・・・わ、すいませ・・・」
ぶつ と鈍い音がしたのはわかったんだけど。
「あー・・・ ま、いいよ別に。気にすんな」
まるで気にしないといったふうに、脱いだ服をベッドの脇へと落としながら先輩は云った。
「大切なものでしょう」
「大切っちゃたいせつだけど・・・いいって。あとで直すから」
すこし云い募った僕を穏やかにいなし、それより今はこっち、と僕の尻たぶを強く揉みしだいて引き寄せる。待ち構えたように薄く開いた唇が先端に触れた。やってしまったことに対しては申し開きもないのだけれど、やはり僕としては居た堪れない。先輩の腹からも落ちて、今度は僕の膝に踏み潰されそうになっている金属のタグと鎖を手探りで拾い上げた。
生温かい息と啄ばむように動く唇が、敏感になり過ぎた先端を嬲る。ざらついた舌が根元から舐め上げ、張り出した境目と裏筋をくすぐる。長い指は揉むように何度も臀を掴み直し、空いたもう片方の手は股座に差し込まれ、手のひらに包みこんだ部分を優しく愛撫していた。
根元までを口に含んで頭を揺らす。届かない部分には指を絡ませる。先輩に合わせるように僕もゆっくりと腰を動かす。柔らかい口腔を緩く突くたび、鼻にかかった甘い呻きが呼吸に合わせて小さく漏れた。薄い唇に出入りするくすんだ色の肉塊のまとったぬらつきと、ひらめくように動き這い回る赤い舌が視覚を犯す。臍の奥が断続的に痙攣するような感覚に、銀色の髪を両手で掻き混ぜようとして、自分が手に握り締めているものの存在を思い出した。射精感が募る。ああ。両膝に力を入れていなければ、今にも崩れそうだ。
「・・・これ、切れて、ない・・・みたい」
どうにか気を逸らそうと手のひらからつまみ上げて検めると、意外にしっかりとした作りの鎖は当たり前のように無傷で。布地にでも引っかかって留め具が開いたのだろう。よかった と安堵に呟いた僕を浅く咥えたまま、ふ、と先輩の笑う声。
「いいって云ってんのに」
「僕が、よくないんですよ」
ふたたび含んだ僕の形を確かめるように、舌全体がそれをなぞって蠢く。奥まで呑み込まれて喉で締め付けられ、これ以上ないくらいに張り詰めた括れにとがった歯の先を甘くかけられて、思わず僕は短い悲鳴を上げた。
上目の表情は予想通りのしたり顔、僕はすこし物云いたげに映っただろうか。
「ちょっと、センパイ、じっとして」
でないと、イキそう。
僕は、僕自身を口から離し、それでも名残惜しそうに滲み出る欲を舌に舐めとっている先輩の頸へと手を回し、指先の感覚だけを頼りに小さな留め具を噛み合わせた。
「・・・できた」
「ん・・・? あ、・・・ありがと」
一連の、ほんの数秒の行為に気抜けしたように目を丸くしたまま、先輩は小さな声で謝意を述べた。
少し肩を竦め、テンゾウどこの王子様だよ なんて揶揄めかして、この人なりの照れ隠しなんだろうか。
そう、演出だとすればこれはいささかやり過ぎの感だし、もしそうだとすれば、仕掛けた僕のほうこそがそのはにかんだ笑み顔に蕩けてしまう。お互いをかばいながらゆっくりと身体を横たえて、やさしさのままにくちづけを交わす。絡ませる舌のなすに任せて伏せられた銀の睫毛を薄目で見ながら、そのうっとりした表情に勇を得た僕、今ならちょっとしたわがままも聞いてもらえるだろうか。
「ね、センパイ、もうちょっと、舐めて」
「ん」
ああ、ほんとうによかった。
どうなることかと思ったけど、終わり好ければ何とやら。
片肘をつき上体を起こして見れば、僕の股間に顔を埋めていつにも増して艶っぽいその表情に悩殺された。
ねぇカカシ先輩。あなたは気づいていないのかもしれないけど、あなたにとって大切なものは、僕にとっても大切なものなんですよ。
いろんな意味で。
舐めてるときに揺れる金属のタグが、内腿とか、そのもっとその、いわゆる敏感な辺りに当たって思いがけず気持ちいいからなんて、死んでも云えない!
2008/01/29
(先輩ごめんなさい)
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