スプリングヘイズ。
間に合わせで買ったレジャーシートは、先の季節の空を吸い取ったような青だ。
食べ物の空き箱や読みかけの本、とっ散らかったその上で、空になったビールの瓶が転がってぶつかり合いカチカチと音を立てている。
ボトルグリーン。ラベルには「HARP LAGER」の文字とアンティックゴールドの竪琴。

「……っ」
「ン、……は、ぁ……っ」

白地にくすんだ藤色で細いチェックが刺されたシャツは、ワードローブの中から彼が選んで貸してくれた。
そのシャツを指先が白くなるほどきつく握り、彼は骨を押し付け擂り潰すように腰を回す。





降り注ぐ陽光を浴びた彼にハロ。
ボクのミューズ。
それを言うと、彼は必ずこう返した。
相変わらずオマエは、──ボクは、ジャンキーだと。

「幻覚でも、見たかよ」

サーカズム。
気づいているのだろうか。
その笑みをこぼす唇の弓なりこそが、ボクにそう言わせているのに。



少し浮かした腰を、ボクは下からゆっくりと突いた。

「ルーシー、……」

倒れこんできた彼を抱き止める。
聞いたことのない名前を呟く彼に、それが何かをたずねる前に唇に唇が触れた。
舌が差し入れられ、ボクらはぴちゃりぴちゃりと音を立てながら互いの口腔を奥深くまで舐めあう。

「うっ、……ん、ッ」





へとへとになってたどり着いた彼の部屋で深夜のテレビが流していたのは外国の映画だった。
溺れる女。
酒と麻薬、毎晩違う男とセックスをする女。
長い髪を真ん中で分けて、大きなサングラスをかけていた。

ルーシー、だったかもしれない。


それともそれは、おとといふたりで遊んでやった商売女の名前だったかな。





全身の筋肉を突っ張らせて、ボクの肩を、指の痕が残るほど強く。
色のない青空をバックにしろがねが弧を描く。

「……っ!あ、はぁ」

空中に浮遊する微細な水滴をそのまま映しこんだような膚の色だ。
そんな彼に、薄い薔薇色のプレーンなシャツはとてもよく似合っている。



(お返しにボクが選んだシャツだ)



夢中なボクは、肌蹴たシャツの胸元から彼の腋に鼻先を突っ込む。
ねじれる彼、笑い声。
ボクの頭を掻き抱きながら、腰の辺りだけを淫靡に揺り動かす彼。
それをわしづかみ、引き寄せてがくがくと揺する。

「あ、あぁ…ッ!」

タンジェリンが明滅する。
腹のあいだに挟まれてくじられていた彼のペニスから精液が飛び散る。
ボクは目を閉じ喉を閉める。
するとその色はやがて瞼の裏いっぱいになった。

「くっ……!う……、はぁ、はぁ」
「ああ……テンゾ……テンゾウ…」







浮遊、あるいは真っ逆さまに落ちていくような。
解放。 快感と恐怖。
閉じた暗がりで疾走する色、音、匂い、温度。
すべてがめまぐるしく入れ替わる。
ああ、幻───、 極彩色だ。








「おまえ、キメたままやったことある?」



奇妙な質問に、まどろみかけていたボクはゆっくりと瞼を持ち上げた。

「ええと……」

どう答えるか迷っているボクの隣で、彼はドーナツ屋でもらった紙ナプキンで腹を拭っていた。
七色のスペクトルを作る髪。
ボクの、ミューズ。



「ボク、昔からのあれでクスリ効かないんで」
「ああ、そっか……そうだよな」

オレもそう。
彼はこちらを見ることもなく言い、会話はそこであっけなく終わった。



けばけばしく飾られたチョコレートドーナツをかじっている。
どうせ残りは押し付けられるだろう。

ボクはまた目を閉じた。


ぬるい風はミモザの枝を揺らし、汗ばんだシャツの中を吹き抜けてゆく。





ルーシーはダイヤを持って空に
ルーシーはダイヤを持って空に















2009/01/23

(春まぼろし アナタTOXIC)










(テンゾウの財布から出てきたレシート 展示中)
(御礼画像4枚目です)
(いろいろぶち壊しなので気をつけてください)




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