風邪





「ではボクはこれで」
「待て」
「うぐぇ」
マフラーの端はしっかりとカカシの手に握られていた。
「何するんですか」
「何を期待してるんだよこの変態めが」
「理不尽に罵られるのにも慣れましたが」
「病人のオレを放ってこのまま帰る気かって訊いてんの」
「それは初耳です」
「これって見舞いに来てくれたんじゃないの?!」
「みかん買って3分以内に届けやがれっていう伝言は忍犬からもらいましたが、そこまでは」


ヤマトは部屋へ上がりこんだ。
「あ、こたつ出したんですね」
「昨日やっとね」
「うたた寝して風邪ひいたんですね」
「まぁ座んなさいよ」
「流された」
「誰しも認めたくないことはあるもんだよ。さ、茶でも飲んでみかん食べて」
こたつにもぐりこんだヤマトの前に、湯気をたてる湯のみとみかんを盛った竹カゴが並べられる。
「ばかに用意がいいですね」
ヤマトがひとくち茶を啜る。
「おまえが来るの待ってたからな」
カカシがみかんを口に入れる。
「そんなにみかん食いたかったんですか」
「うーん……まぁそれもそうなんだけど」

───オレはおまえを待ってたんだよ、テンゾウ。

心なしか潤んだ瞳。
ほんのりとバラ色に染まる頬。
そんなカカシをヤマトはじいっと見つめた。


「カカシ先輩……」
「ん、なぁに」
「今はヤマトでおねがいします」
「ケッ、あいかわらず細かいねぇ」
「うわ、先輩みかんの白い筋取らないで食べる派ですか」
「男がタマの小さいこと云ってんじゃないよ」
「『ああん大っきいw』とか云いながら揉んだり転がしたりしてよろこんでるのは何処の誰 です    か 」


ゴトリ。

会話はそこで途切れた。
「ついに妄想と現実の区別もつかなくなったかよ」
みかんを咀嚼しながらカカシが呟く。
「でも、ま、この即効性は実戦でも使えそうだぁね」
手には試薬の小瓶。
カカシはよっこらせと立ち上がり、寝込んだヤマトを床に横たえた。
ぐいと身体を丸めるようにヤマトをこたつに押し込むと、満足げにうなづく。
「やっぱこたつにはこうでないと……っていうか、あー熱のせいで目がジンジンすらぁね」

フンフフフフフンフフフフフーン。
そして鼻唄なんぞ歌いながら、風邪っぴきの上忍様はいそいそとアスマに写メを送るのであった。












2009/02/13
(ネコはこたつでまるくなれ)







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