酔い任せ











オイオイ、頼むよ。


「うっわ、酒くさぁ」
「あぁぁすいまへぇん、僕ちょっと酔って、ゥォエッ」

だいぶ気持ちのよくない息を吐きながら、テンゾウは壁にもたれて座り込み、うなだれた。

「なんか、オマエ、何?女買ってたんだ?」

おしろいの、好ーい匂いさせちゃって。
その言葉を聞いたテンゾウは、じとりと俺をねめつけた。
別に責めてるわけじゃない。妙齢の男子たるもの、花街ぐらい行くだろ。

「う、ぁぁぁあああああ」

何だかわからないけど勢いつけて抱きつかれた俺は、考えるのも抱きとめるのも面倒で、そのまま泣き崩れ寸前のテンゾウごと、ラグの上へ転がった。

「何だっていうのよ」
「ダメらった」
「ハァ?」
「全っ然、らメらったんれすぼく」
「何が」
「なにが」
「だから何が?!」
「れすからぁ、なーにーが、ですよぅ!」

あー。 ナニが、ね。
「そんだけ呑んでりゃ、そりゃあ勃たないでしょうよ」
俺の肩に顔をうずめたまま、ヨヨヨ と殊勝な泣きまねまでしてみせる。
「いやいやいや、そんなことなかったんですってぇ」
「昔は平気だったのに って?」
「おっしゃるとーりー」テンゾウはこくこくと頷いた。

歳のせいだねぇ と年上の自分が口を出すのも憚られて、俺は肩をそびやかす。

「おねーさんにぃ、笑われっちゃってぇ」

一体どんな醜態をさらしたというのか。想像して、すこし呆れた。

「まぁねぇ。でも向こうは商売だし、やさしかったろ」
「えーえーえーそれはもう、やさしくエろエろシてもらったんれすけどォ」
ダメらったすねぇ、と目の前の酔っ払いが息を吐く。
どう解釈したって己の不徳の致すところだろうに、全く得心がいかないといった顔つきだ。

切れ切れの話をまとめると、今夜はどうやら暗部の、品のよろしくない方面の連中とつるんでいたらしい。
お天道様のある時間から呑みはじめ、開店と同時にその手の店に雪崩れこんで、手製の合鍵でうちへ転がり込んできたのがついさっき。まだ夜もだいぶ早い。

「今宵ィ、愛しいアナタの御尊顔、拝顔賜りたくゥ」

誰もいない方向に向けて呻っている阿呆はいうほど不貞ている様子もなく、弱いなりに上機嫌で呑んできたのだろう。
金返せっつのッカヤロぅ と、ケチくさい文句を云う口調は呂律が怪しい。
かと思えば、意識が落ちたかのように黙ったり、盛大にえづいたり。
日ごろ怜悧なこの男がクダ巻く姿は、シラフの自分からすればかなりおかしな見世物だったのだが。

「オイオイオイ、ちょっともう勘弁してちょうだいよ。水飲め、水」

そろそろそれも見飽きた。

「ハイ。えっと、水ー。水ー」テンゾウは辺りを見回しながら云った。「どこれすかね、みず」
「台所行って自分で飲め」
「ああぁセルフサービスー!」
「そゆこと。さ、俺はもう寝るぞ」
「えええー」
「追い出されないだけありがたく思え」

さすがに寝るにはまだ早い気がする時間ではあったが、どっと疲れたのも事実だ。
図々しく腹の上に乗っかったテンゾウの頭を手でどける。
ごん、と鈍い音がしてだいぶたってから、痛ェ、と間抜けな声が聞こえた。

ヘッドギアと愛読書は拾い上げて、机の上に置いた。
脱ぎ捨てられたベストも、椅子の背にかけてやる。
寝具の予備はないから、台所から戻ってきたテンゾウには俺が風呂上りに使ったバスタオルを投げてやり。
当方、泥酔のお客さまのご乗車は固くお断りゆえ、「オマエ、今日はそこで寝ろ」。俺はベッド下のラグを指差した。
幸いにも、2週間かもうちょっと前に洗ったばかりだ。

ラグを眺めて、タオルを検めて(匂いまで嗅ぎやがった)、『ではおやすみなさい』と頭を下げたテンゾウ。
あまり用を成していない布切れを、気持ち悪いぐらい丁寧に肩先にかけた酔っ払いは床に転がって、3秒で、寝た。






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ふわりと石鹸の香りに目が覚める。
時計の針は、じき夜の終わる時間を指していた。

「ん、風呂、入ったの」
「あ、ハイ、お借りしました。っていうか、すいません」

ぺこりと頭を下げ、消え入りそうな様子。
まったくだよ、と笑った気配は、闇の中でも届いたらしい。テンゾウの口元も同時にほころんだ。
布団を捲り上げて場所を空けてやる。
いつもと違い、テンゾウはベッドの端に遠慮がちに収まった。

「まだ酒臭いねぇ」
「面目ないです」
「本当に、いろんな意味で」
「僕、酔ったまま何か云ってました?」
「覚えてないのか?」
「覚えて、いるような、いないような」
俺はテンゾウの股間をむんずと掴み上げた。

う とうめいて、一瞬腰を引く。
それでも離さずに手のひらで揉むように弄っていると、それは徐々に芯を通した。

「あぁ、なんだ。役立たずでもないじゃない」
「人を不能みたいに云わないでくださいよ」
「だったんだろ、今日は」
「あれは諸事情あってのことで」

それでもいつもよりは反応の鈍い身体に、いたずら心がちらりと湧いた。

「脱げよ」
「え」

なんとも情けなく、おびえたような視線を寄越す。

「いいから、脱げって。好くしてやるから」
「いや、まだ、アルコールが」
「抜けてないほうがいいんだよ、ほら、脱げって」

ハァ、と気の抜けた返事をするテンゾウの脚から下着を引き抜いて、俺はベッドの向こうに隠してある(落ちたままになっている、とも云う)ローションのボトルを手探りで探し当てた。
自分もさっさと下着を蹴り脱いで向かい合い、テンゾウの膝下に自分の足を入れ、お互いを抱えるような体勢 で座る。
なんとなく目が合ったからキスでもするのかと思ったら、云いづらそうに「ちょっと、今日は、」と口ごもって目を逸らされた。

「わかってるって。突っ込んでくれなんて云わないよ」

俺はできるだけやさしく、なだめるような声を出す。
半端な状態のイチモツがそれぞれの色の下生えにあって、俺は腰を使ってそのふたつを捏ねつけてみた。
頚に腕を回して口づけると、テンゾウの息の甘さにこちらが酔いそうになる。
いろんな意味で、だ。
なんだかんだ云って、多少酒に酔ってたってコイツはキスがいやに巧い。

「今日は本当に無理ですって」
「いいから。いいから。ちょっとするだけ」

適当なことを云って、黙らせた。
たらたらと股間へ垂らしたローションを右手で受け止め、2本の竿に塗りつける。
強烈に甘くて安っぽい匂いが、引き締まった筋肉の腹から立ちのぼる。
テンゾウはあからさまに顔をしかめ、「今この匂いはちょっとキツイな」と云って、後ろ手に上体を支え直した。

ふたりのモノをまとめて握り、揉むように扱き上げる。
ぬちぬちと人工的過ぎる粘質な音が、行為のイヤらしさと阿呆らしさを高めている。

「ああ」気持ちいい、と先に呟いたのはテンゾウの方。
「ん、いいでしょ、ね」

硬度を増したモノが手から滑り出さないように注意しながら腰を使ってゴリゴリと擦り合わせると、テンゾウの吐息が次第に熱っぽいうわずり声にかわってきた。

これだよ、これ。
俺はひとりほくそ笑んだ。
酒が抜けてないほうがいい、というのは実はこういうわけで。

控えめではあるが、テンゾウはいつもよりもうっとりと喘ぐ声を聞かせてくれた。
そもそもコイツ、いつもはあんまりアンアン云わないヤツだ。
いつもは男らしく噛み締めて、押し殺した息遣い って程度。
ま、喘ぎ声が犯罪級といわれる俺だって、いつもいつも本気で啼いてるかといえばそうではない(勿論そうであることも、たまにはあるが)。
あれは単にサービスの一部として副音声をお届けしているわけ。
そういうサービスがあるなら聞いてみたいって思うのがヒトってもんだろ。
俺だってたまにはテンゾウの啼き声が聞きたいんだ。

じっくりと責め立てるにつれ、次第にエスカレートするテンゾウの ああ だの あふん だのを聞いて、俺は快哉を叫びたい気分になる。

「テンゾウ、ココ、いいの?」
「あっ、う、あぁ、ああ」

突端の裂け目を二本の指でいじりながら、テンゾウの方を穿る中指にだけ、力をこめる。
少し腰を浮かせて膝立ちになり、空いた左手を使ってヌルヌルまみれの袋も揉んでやった。
テンゾウは相変わらず後ろ手で身体を支え、首を仰け反らせて、半開きの唇からはひどく艶かしい吐息を聞かせている。
これもアルコールの為せる技だ。

お互いの張り出した笠が引っかかるように腰を振り、その上からさらに手で扱いた。
二倍の快感でふくらみを増した肉の輪が押し返しあって、さらなる快感が背筋を這い上がる。

「―――ハァ、あ、あ、っあ、ああ」

耐えきれなくなったか、腕から力が抜けたのか、ついにテンゾウが後ろへ倒れた。
すかさずヤツの腰を持ち上げるように膝を進め、俺はニヤリと笑ってみせる。

「好くしてやるって、云ったろ」

ローションだか先走りだかわからない滑りを借りて、俺は慰み程度に窄りの周辺をほぐし始める。
「あ、ちょっ、せんぱい」
これからされることを悟ったテンゾウが身構える。
ほぐした筋肉が無駄に硬直する。
でも残念。 俺の指はほぼ抵抗なく、ずぶずぶとテンゾウのなかに飲みこまれていった。

「あ、ああッ!」

アララ、なんだか、ずいぶん柔らかい。

「ねぇ、もしかしてオマエ、ここ弄られた?」ぐりぐりと入り口付近の内壁をなぞるように指を動かす。
「んあぁ!はッ、ちょ、ちょっと、待ってせんぱい!」
「待たないね。ホラ、答えなさいよ」

指を引き抜くと、テンゾウは殊更に情けない声を上げた。

「なーんか、柔らかい」強引な責めに跳ねた竿を握りこみ、指を一気に2本、突き入れる。
「あ、うぅ、っ」
「ふぅん、そうなんだ。ここも弄られたのにイけなかったんだ?」

こういうの、サディスティックって云うんだろう。
酔ってふわふわとしたままの身体をこじ開けられて、黒目がちの目に涙をにじませて。
俺の嗜虐を見抜いたテンゾウもまた、俺を見据えて、離さない。
いよいよもっとどうにかしてやりたい気持ちが抑えられなくなってきた。
間近に視線を合わせたまま、俺は2本の指を乱暴に抜き差しした。
テンゾウの背がしなる。腰が浮く。
俺は中指を奥へと進めて蠢かし、ひとさし指でその手前の壁を圧す。
テンゾウの雄が、手の中でぐんとその質量を増した。

「ん、ああっ!あッ」
「ここだねぇ?」確認する意図は無いが、ぐいぐいとその場所を指先でなぞった。
「あ、ッ、せんぱい、待っ」

どこか頼りなかったテンゾウのそれが一気に猛々しさを取り戻したようだった。
中の指が好い処をかすめるたび、俺の手の平を打って、反り返る。
先端に滲む透明な液が次々と玉になり、揺れてこぼれて竿を伝った。

「ねぇテンゾウ」俺は奴に身体を寄せた。
「な、んです」
「一回味わっちゃうとさぁ、もうダメでしょ」

わざと覗き込むように云うと、テンゾウは云う意味がわかったのだろう。困ったように眉根を寄せた。

「コレが、大好きになっちゃうんだよねェ」

ヒクつく入り口に<コレ>を宛がって、撫で上げ、撫で下ろす。

「ッ、ふ」
「俺がちゃーんとイかせてやるよ」

膝裏を押すように手をかけて、位置を定めてじわりと腰を突き出す。
狙い通り、俺が、テンゾウの中に埋まっていく。

「力、抜けって。俺がツライから」

小刻みに揺すりながら膝を進める。
ぎちぎちとはまっていく杭に体重を乗せ、最後まで埋め込んだところで俺はテンゾウと抱き合った。

「だいたいオマエさ、普段から贅沢しすぎなんじゃなーいの」

俺はテンゾウの額を撫で上げ、チュ、チュと音を立てながらキスをした。

「は、それは、どういう」
「ん?わかんないの?察しが、悪いねぇっ」
引き抜いて、仕置きとばかりにその部分を目掛けて突き上げる。
「く、ぁああッ・・!」
続けざまに打ちつけると、繋がった部分はこれ以上ないぐらい卑猥な音を立てて俺を悦ばせた。

「すごいねぇ、音、聞こえる?」
「ん、ああ、ぁあ、き、きこえ、る、きこえます」
「やらしいね」

なんでその時、そう思ったかはわからない。
ヤツの黒い目がそう見えたのか、ただ単に、今日はタチ役の俺をヒィヒィ云いながら咥えこんでるからそう思ったのか。
抜き差しを繰り返して、俺は自分が思ったことを、何も考えずに口に出した。

「テンゾ、これじゃまるでネコだね」

ひくりと震えたのは、竿だけじゃない。
体をわななかせて、眼をぎゅっと閉じて、

「ニャにが、ですか・・っ!」

テンゾウは、鳴いた。

わざとだか、思いがけずだか知らんけど、誰がどう聞いたってあれは猫語だ。
いや、違う、ちょっと!違うから! と、苦しい言い訳を続けるテンゾウに覆いかぶさった俺はもううれしくて可笑しくて。
あまりの興奮に、あとはもうむちゃくちゃに腰を振って、弱り果てたテンゾウに嗜虐の限りを尽くした。

いや、止まんなかったんだよ、本当に。






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気づけばふたりしてドロドロのぐちゃぐちゃだった。
部屋には朝日が差し込んでいる。
あと五分でアラームの鳴る時間だ。

さすがに疲れを感じた俺は、腹筋を引き締めて最後のひと絞りを搾り出した。
崩れた四つん這いのテンゾウからずるりと引き抜くと、結構な量のいやらしいやつが溢れ出てきた。
俺もまだまだいけるな、と満足する。

それにしてもティッシュが遠いが、ナイスなことに足元にはバスタオルが落ちていた。
ラッキー。またラグで拭う羽目になるとこだった。

「おーい、テンゾ、朝だぞぉ」
そう声をかけながら俺はテンゾウの中に指を突っ込んだ。
「う゛っ」戦闘で傷を受けても平然としている男が間抜けな声でうめく。
俺は人差し指で申し訳程度に後始末をしつつ、テンゾウの尻たぶをぺちぺちと叩いた。

が、それきり返事がない。しかばねのようだ。

呑み過ぎのところへ無理をさせたか。
心配になり、俺は屈んでテンゾウの顔を覗きこむ。
すると、あっ と思った一瞬で下へ巻き込まれ、拘束体術で動きを止められて。

「ちょっと、もう、ああ、今の動きで本っ当に尽き果てました・・・ボク、死にそうなんですけど」
さすが俺の後輩、なかなかやるじゃない。
「でも二日酔いは自業自得だろ」
「そうじゃなくて」
「たまには俺だって掘りたいの」それを聞いたテンゾウは力なく俺の上に崩れてきた。
「そもそもおまえは贅沢なんだよ」
「何が、ですか」
「だからぁ」
本当にわかってないねぇ、とあきれてしまった。
「俺ってその辺りの女より全然具合好いわけじゃない」
「ハァ」
「そんな俺に毎晩毎晩突っ込んでたら、そりゃオマエ、ほかじゃイけなくなるっちゅう話でしょ」

俺の言うことをようやく理解したらしい。テンゾウの顔が、みるみるうちに変わっていく
そんな『この世の終わり』みたいな顔、するなって。

「だから、俺思うのよ。昨日の花街でのおまえの失態は酔ってたとかじゃなくてさ」
「な、そんな、ちょっと、せんぱい!」

慌てるテンゾウの頭をがっちりとホールドして、耳に唇をつける。

「オマエはさ、もう男相手じゃないとダメな身体に、なっちゃったんじゃなぁいの?」

テンゾウの動きが止まった。

「あげく今日は、ネコでもこんなに乱れちゃって」

テンゾウの腹にぶちまけられた精液を指でなぞって、それをわざとらしく舐めてみせた。

「これでオマエも立派な『ホンモノさん』ってわけだ」

しばらくの沈黙の後、ヒクヒクと引きつる笑顔のままテンゾウはベッドに転がった。
ぱくぱくと、死にそうな魚みたいに口を動かして。
「ぼく、リアルワールド、ようこそ、ボク」 って、なんだ、それ。






俺はすっきりとした気分で立ち上がり、伸びをしてカーテンを開けた。

さて、シャワーでも浴びてコーヒー淹れて、新聞を読もう。
ついでに書きかけの書類も終わらせなきゃいかん。
それが終われば家を出て、着くのは余裕の120分遅れ。
ザッツワンダフル。素晴らしい朝だ。



それにおまえ、今日はヒマな日でよかったよ。
すがすがしいついでに「セックスし過ぎの為」って欠勤届出しといてやるからさ。

ま、そう落ち込むな、俺のかわいいネコちゃんよ。

















2008/05/06

(別にいいじゃないねぇ なんにも困らないよ俺は)



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