欲求不満
「よーぉ、テンゾウ」
俺が人を待つことなんてあるのかって?あーらら、心外。でも、ま、そんなふうに思われてんのは事実みたいだし、それが俺にとってうまく役立つときもないわけじゃない。今日だって全くの偶然を装ってここにいるわけだから、ばったり出くわした(ふりをして待ち構えていた)テンゾウの口からは、俺がここにいることを不審がる言葉なんか何ひとつ出てこなかったよ。 ただいまかえりました ってひと月ぶりに聞く声は、裏の裏をかいてまでここにいる俺をなんだか決まりの悪いような心もちにさせる。だから俺は、ひととおりのあいさつを交わしてさりげなく無事を確かめたら、あとは特に何もしゃべらずに手にしていた本に再び目を落として歩き出した。
隣に並んだテンゾウも、何も云わない。 普段、コイツが何を考えているのかはあまりわからないし、コイツはそれをわかってほしいなんて思っていないように見える。で、わかりたいとも思わない俺は思うわけよ。コイツのこういうところは、悪くもないんじゃないかってさ。 家は久しぶりだから冷蔵庫には水しか入ってないって? ま、いいんじゃないの、別に。 頼まれてもいないけど出向いちゃったからには、ちゃーんとお礼、してもらわないとね、テンゾ。
「ああ、カカシ先輩」
誰かを待たせることはあっても、この人が待つ なんてことはあるんだろうか。だから結局、これは都合の好い憶測が導き出した結論に過ぎないんだけど、もしかしたらこの人は、僕を、迎えに来たんじゃないかな。違ってたらものすごくカッコ悪いから、本人に向かってそんなことは云わないけれどね。 おつかれさん と労う声は『いかにも偶然』みたいな感じの云い方だったけど、ひと月も封じていたよこしまな思慕を膨らませるには充分過ぎるぐらいに生々しかった。面倒な報告書を出すのを後回しにしなかった自分に一定の評価を与えつつ、ふたりの進む先が僕の自宅だということに満足して、僕は笑みを殺す。 普段、この人が何を考えているかっていうのは結構わかりづらいよ。でも、無理に聞き出さないほうが雰囲気なときもあるし、もちろん、知らないままのほうがいいときだってあるだろうしね。わかるぶんだけわかればいいって僕は思ってる。だから今みたいに、この人が何も云わなくなるのも嫌いじゃないんだよね。 部屋に戻ったら最後、明日の朝まで出て来られない気がするな。腹が減っても今うちには水しかないけど、構わないっていうなら仕方無い。こき使われるのも今夜ばかりは望むところ、とでも云っておきますかね、先輩。
こういうときは決まっていつもよりじっくり時間をかけて、いやらしくてしつこいセックスをする。
そうしてやる。
それこそ、命果てるまで ってイキオイで。
それが自分の思うところだし、相手の思うところでもあると思ってる。
聞いたことなんかないけど、そうに決まってる。
時間をかけて思い知るすべては、予想通りでわかりきったことなんだけど
あえて、どれだけガツガツできるかを見せつけるたのしみとかね。
んで、それが終わればまたそれぞれが
欲求不満の日々を過ごす繰り返しってわけ。
楽しそうでしょ。
とりあえず、まだしばらくは続くよ。
2008/02/24
(だってまだぜんぜん足りない)
ブラウザでお戻りください。