聞こえてるわ。
そんなに大きな声出さなくたってよく聞こえてるわよ。
ええ、はいはい。
睡眠と、エネルギーの足りない頭でも、親友だもの。 一緒に考えてあげるわ。
ほら、甘栗甘のかすたーど饅頭。 はまってるからって食べ過ぎたのよ。
だからこんな清清しい朝っぱらにジョギングなんてしなきゃいけなくなるんだわ。
おかげでこんな白白しい笑顔でわたしはアンタのおしゃべりにつき合わされてる。
なにそれ?シノ? ふぅん、よかったじゃない。
驚くわけないでしょ。べつに羨ましくもないし。ばかね。
きっとシノはただ――アンタがそうやってうるさすぎるから!――休みの日にまとめて喋ればいいと思ったんだわ。
そうじゃなきゃふたりでどっかに出かけようなんて、あの人が云うはずないじゃない。
しかもたぶん、色気のないとこに連れて行かれるわよ。
虫捕りとか、虫捕りとか、虫捕りとか。
それに、そうね。 もしかしたら興味があるのかもしれない。
自分の持たないものに惹かれるのは、人も虫も一緒なんじゃない?
オスがメスに、メスがオスに。
目も口元も隠した無口な彼が、ばらんばらんに開けっぴろげで姦しいアンタを。
うるっさいわね、聞いてるわ。
どうせボサボサよ。ほっといて。しょうがないじゃない。いつものシャンプーじゃなかったんだから。
トリートメントも、ドライヤーすらなかったのよ。
やかましいわね、頭が痛いのよ。 いいのよ、今日は休みなんだから。
昨夜の分まで惰眠を貪るって決めてるの。 寝られれば、だけど。
忍としての矜持とか、好きでもない人とのセックス云々とか、あの人はわたしの元センセイだとか。
そんなことは1回目のティッシュにぐるぐる巻かれてぽいっとゴミ箱に投げられた。
目眩するほどぐらぐら揺すられて、何度も。
キスするふりしてかじったから怒った。
オマエにも同じように、しばらく取れない痕を残させてもらおうかって。
でもそんなのはたぶん全然、口から出任せの嘘。
カカシ先生の嘘なんて慣れてるし、バレバレよ。
第一、わたしそんなに強く噛んでない。
そう。 きっとセンセイはわたしの身体に、興味が湧いた。
だってそうじゃなかったら1回すれば済むことだもの。
1回、どんなことでも1回やればたいていのことはわかるわ、わたし。
2回3回、それからあとはもう曖昧。
今までに無いようなキモチイイことを教えてあげるなんて云ってたけど、ただのそのへんの女と同じに見られてた。
そんな目をしてただのオスになった先生だけ、わたし、見てた。
で、最後の最後にはわたしも興味が湧いたわ。
この人をこんなにしちゃうなら、こういうのってこれから先、ほんとに役に立つかもしれないってね。
そう?
なんかうるうるしてるとしたら、それは黄色く見えるよなんて噂に聞いてたあの朝日のせい。
なんかつやつやしてるとしたら、それはホラあんたも師匠からもらったでしょ、あの紅のせい。
違うの?そんなんじゃない?
だったらきっとわたしは見違えるほどオンナになった。
きのうの、たった一晩で。
うふふ
なぁんて、云わないけど。
ねえ、いの。
遅かれ早かれなんだけど、また一歩、お先に失礼。
ううん。なんでもないわ。
じゃあまた明日ね。
余計なお世話かもしれないけど、もうあのお饅頭はやめときなさいよ。
ごめんねわたし眠いの。
バイバイ。