テメーの頭は何のためについてる?
 下げるためについてんだ。

 そう割り切ってしまえば他人の下劣さを真に受けることもなくなり、言葉はただ下げた頭の上を通り過ぎた。




「おまえなぁ、ちょっとばかし成績が上のほうだからって甘く見てもらえると思うなよ」

 サンダル履きの足元へ向かって頭を下げていた。
 こうまでして守ろうなんて、いじらしいじゃないか。
 自分だって年相当に純情、しかし今は歪む口元を見られないように俺はただひたすら頭を下げる。

「いつだって潰せるんだぞ。覚えておけ」

 その声はどこか遠く、ぬるい風にのって届くグラウンドにいる奴らの掛け声ばかりがやけに耳についた。

 あいつらの言葉はいつだって突き放すようでいて、粘っこく絡みつく。
 けれどいつだってしたり顔、何度でも聞かされるそれを覚えておく必要はない。

 忘れろ。
 忘れちまえ。
 西日に照らされる廊下を歩きながら、右手を突っ込んだポケットの中で、たまり場の小さな鍵を握り締める。


 毎日は追えば追うほどに心焦がれ、離れがたい。
 そのくせ、自分から手を伸ばさなければすぐに遠くへ離れていってしまうと相場は決まっていた。
 何年か前のある日にそのことに気づいてからというもの、俺は、どうかしちまったんだ。
 
 しかしどれだけ暴れても、痛む箇所が増えるだけ。


 だからもう仕方ないと早々にあきらめたこれまたずいぶん前のとある日、なぜか俺は笑い出し、今日に至る。
 
 滑稽で興味深く、好くも悪くもギリギリのラインで踏みとどまることを試される刺激的なチキンレース。
 ヘラヘラでも笑っていれば、そのときばかりは誰も逃げていかないことも知った。

 そんな毎日の繰り返しを手放したくないなんていういじらしい思いが、確かに自分の中にあるのだ。


 噛み締めていた奥歯から力が抜ける。
 自然、頬も緩み。

「センセー、穂高くんがまたイヤラシイこと考えてニヤニヤしてまぁす」

 
 偶然を装ってはいるが、実は探しまわったあげくに放送室前で待ち構えていたであろう愛すべきバカたちに囲まれて、俺は笑う。














2009/07/13

(この笑い顔が貼り付いて離れなくなればいい)














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