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こちらのssは、とうわさんちにある「亮ちん板挟み漫画」のアンカーとして書いたものです
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一度は口癖。
二度目は遠慮。
三度繰り返されたら、それは拒絶だ。
「ひとりで帰れるよ」
「襲われたらどうすんの」
「襲われないって」
その口はいつだってしなやかでしたたかで、今日は特別に憎らしい。
「じゃあオレが襲う」
そう云うと数メートル先の暗がりを見つめたまま、キミは目を細めた。
「いいね」
よそおう強気。
でもいくらきれいに笑ってたって、そんなのはおかしいじゃないか。
どうしてキミは、こっちを見ない?
――行くんだ?
――どこに?
――行くんでしょ。
――うん・・・まぁ、云ってること、よくわかんないけど。
なにもかもがいつもどおりだった。
揺らいだキモチに気づかないふりをして、キミもオレも、肝心なことをはぐらかしている。
「ホラ、行くよ」
「・・・」
「今日は家まで送る。行こう」
そうやって何万通りもある解釈をやってみろと投げて寄越すキミに、
とりあえずは自分の答えを示さなくちゃならない。
たとえそれが解決になりはしない力技でもだ。
腕を引き、道を横切り、網の目に広がる住宅地に紛れた。
細く暗い路地を選んで進む。
その暗がりに棲む、悪い力を借りるために。
夜道でのキスはこれが四度目。
フリスクで味つけされたくちびるは甘いはずがないのに無駄に甘くぎこちなく、
それでも応じるキミの舌に、「どうか騙されないで」とかたくななのは間違いなくオレの方だった。
単純は通用しない、五ヶ月目の駆け引き。
悪者は誰か。
わかりたくもない。
ただ、目を逸らすようになったら負けだ、と強く思う。
あとは彼の家まで無言で歩いた。
今、暗い赤のカーテンがかかる六階の部屋にあかりが灯って、それを見上げるオレの髪はうっとおしく舞い上がっている。
キミは。
オレも。
たぶん誰もが気づいている。
風向きは変わる。
夕凪が過ぎて陸から吹きはじめた風に背中を押され、オレはまたのろのろと海のほうへ歩き出した。
沈まないはずの七つ星が、今日は見えない。
2010/03/19初稿
2011/06/24改稿、サイト初出
(追い風向かい風)
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