appendix
あつい とうわ言のように云うから、窓を少し開ける。
流れ込んでくる雨音と、刺すような冷気に気が確かになったのか、カカシさんは突っ伏していた顔を少し上げた。
「ね・・・、本気・・・出しなよ」
「・・何云ってんですか・・・そんなツラして・・」
しゃがれ声の挑発を一笑。
どうせわかっててここまで来たんだろう男の相手は、長い夜には充分のおたのしみだ。
「・・・ん・・・ぅ・・あぁ」
濡れそぼってぽたぽたと涎を垂らす性器を手にやわく握りこむ。
だんだんときつく擦り上げながら押しつけた腰で中を抉るように揺らすと、シーツを掴む指先に力が篭るのがわかった。
「こんなにしといて、よく云う・・」
たきつけるように呟くと、銀髪から覗く頬からうなじへ、背へほんのりと朱が走る。
こんなときには、白肌ってのも恥ずかしいもんだな。
いい気分になった俺は、そのまま手の中で先端を弄りながら、カカシさんの中へ埋めた自身を浅く咥え込む位置までじわじわと引き抜いた。
「あ・・・・・や、ぁ・・」
温さを引き留めようと腰が揺れる。
快楽を貪る姿にほくそ笑みながら、左手で腰骨をさすり意識を向けさせる。
あわてて止めたって、欲しいモノは欲しいよな。
おねだりされてもよろこぶようなタマじゃねぇが、それを思うより早く強請られた。
ねぇ とひとこと苦しげに呻いて、存在を確かめるように伸ばされた手指が宙を掻く。
「・・・・あっぁああ・・ッ・・っん・・・・・ッ・・・・」
ゆるい動きにもひどく感じ入っているのに、手を緩めれば減らず口はまだものを云うから笑う。
「・・ッ・・も・・ぅ・・・交替・・してよ」
「降参ですか」
「・・・ッは・・・・あとで・・・泣いても・・ッ・・・知らない、よ・・」
「じゃ・・・早いとこ、終わらせます」
腰を掴みなおし、がつ、と大きく叩きつけた。
顎が上がり、背が撓る。
そこではたと思いつく。
ああ、そうか。ヤツもこれを見たのか。
・・・もう見られないなんて、惜しいな。
そう思えば綻ぶ顔を隠すことも出来ず、俺はもっとこの男を啼かせてみたいとすら思う。
穿つたびに高く零れる喘ぎも、わざとにしちゃあ上出来だ。
「!!あ・・・!・・・ッあっ・ぅ・・・アッ・・・ん、も・・・ッハ・・ァっ・・・・・・イク・・・」
硬く張り詰めた括れを弾いて、ぐり、と先端を指で強くなぞれば、それはあっという間だった。
ああ あ と、泣くように長引く喘ぎを聞き、吐精の熱を手のひらに感じると同時に、締め上げるような中の動きに目の前が赤くなる。
強張りの解けそうになる腰を抱え上げて、快感を引きずり出し、埋め込む。
すごい なんていう嬉しくもないおべっかと、高まる絶頂感に押し上げられて、解放を躊躇うことなく俺も果てた。
「じゃあ、舐めて」
覗き込みながらそう云うとゲンマくんは一瞬顔を歪めて、大の字になったまま、交代か と苦笑した。
「うん。覚悟してよね」
萎えたまま招き入れられて、口内で弄ばれる。くすぐったすぎる。
意趣返しとばかり、しっとりと濡れた鳶色に指を差し入れて耳朶を弄り、髪を梳いた。
ヒクヒクと首筋が戦慄いて、髪と同じ色の上目遣いが迷惑そうにオレを見上げ、また伏せられる。
見ている方にはなんの気遣いもないやり方で、根元から這い上がり輪郭をなぞる荒っぽい舌。
硬くなりかけた先端をやわらかい口腔が締め付ける。
なんだか、否、わかってはいたけど、やっぱり巧い。
別料金払うから目線くれっていったらたぶん怒るんだろうな。
バカなことを考えてヘラヘラしてたら、眉間に深く皺を寄せた怪訝がこちらを見てた。
「何すか。ニヤニヤして」
もうすでに怒り口調だ。
笑いながら、なんでもないよ と云ったけど、薄い皮膚の下の血管を、ざり と抉るように舐められて思わず声が上擦った。
臍の裏から背筋に抜けるじわりとした快感に、内腿がこわばる。
きれいな形の眉を寄せて、いやらしい音を立てながら勃起した肉を舐めて。
時折聞こえる、ため息みたいな息継ぎがゲンマくんらしい。
膝にかけられた指に触ると、口を動かしたまま目もくれず、オレと同じぐらいに長い指が絡まってきた。
オマエ、ずいぶんいいことしてもらってたんだ。
もう見られないなんて、さぞかし無念だね。
気風好し。器量好し。 その先は、これから。
「ねぇ、もう来てよ」
人差し指だけで呼ぶのは、もちろんわざと。
そんな態度に、にやり と不敵に嗤ったと思うと、スイッチが切り替わったように神妙な顔でオレの腹の上に跨った。
目の前に突き出された性器には触れもしないで、うしろから回した手で尻を撫でる。
「自分で、する?」
「そこまではサービスしませんよ」
「・・・なかしちゃうよ?」
「そりゃたのしみ」
じゃ、お言葉に甘えて、そうさせてもらおうかな。
指の骨をぱきぱきと鳴らす。
それを見ていた横柄なネコは肩を竦め、お手柔らかに と艶やかに笑った。
2007/12/24
(いつのまにか窓の外は雪)
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