恋を









寒い日が続きます。

濁りのない朝の空気はどうですか。
ちょっと散歩に出かけるなんてどうですか。
あなたを床からはがすのには苦労しそうだけれど、散歩は気分のいいものです。

「そういう気分なんですよ」
「んもう・・・どういう気分よそれ」

渋渋のていで靴をはくあなたを見下ろします。
じゃあついでに朝飯行きますか、なんて感じになります。
ぼんやりとぼくを見上げるあなたは、珍しく首を縦に振ってこたえます。

こうして、あなたと出かける散歩はほんとうに楽しいのです。







ぱりりと薄氷を踏んでみます。
あなたは隣であくびをします。
ちちちと鳴く鳥を見上げます。
あなたは地面を見ています。
ぼくはあなたを見つめます。
あなたはそんなぼくに気づいて、すぐにその目をそらします。







ここはひとつ、こちらから誘ってみようかしらと思ったのです。

その楽しさについて、もうだいぶ永いこと楽しみっぱなしのぼくです。
かなり自信を持ってあなたを誘うことができます。


「たまにはいいもんでしょう」
「わかんない」
「そのうちわかりますよ」
「そうか、ね」


すくなくともあなたよりは長くこの道を歩いてきました。
すくなくともあなたよりはその楽しみを知っているぼくです。







もちろん、この道のいろいろを知っています。
顔をしかめることも、つまづくことも、歩くのを止めたくなることがあるのも知っています。

しかし総じてみれば楽しいものです。
だからぼくはあなたを誘ってみようと思ったのです。

とはいってもなにしろ誘っただけですから、あなたは途中で気が変わって別の道にいきたくなるかもしれません。
もしそうなったらそのときは、ぼくのことを気にする必要はありません。
疲れたから止めるというのなら、ぼくはまたひとりで歩きます。

誘ったのはぼくですが歩くのはあなたです。
勝手に歩いてください。
ぼくも、勝手に歩いています。




ひとりでも歩ける道です。
しかし、あなたと歩くとほんとうに楽しいのです。

すくなくともあなたよりは長くこの道を歩いてきました。
すくなくともあなたよりはその楽しみを知っているぼくです。


だから、きっとあなたはこれからも、ぼくと歩きたくなる。







これはもののたとえで、ついでの話です。
楽しく道を歩くうちに、まわりでとやかく云う人がいるとします。
それはいいとか悪いとか、意味があるとかないとか、何かおかしいんじゃないかとか、そういうことを云う人がいるとします。

そしてその声はもしかしたら、あなたの中から聞こえるのかもしれません。

これまでとかこれからとか。
無理だとかうまくいくはずがないとか。
そんな声が、あなたを引き止めるかもしれません。

でも、覚えておいて下さい。
そういう気分は今、似合いません。











「理由が、必要ですか」
「そうは思わないけど」
「じゃあ、どうして」
「だめなんだよ・・・オレじゃ」
「・・・」
「だから、オマエは」
「ちゃんとこちらを向いて」
「・・・」
「ぼくを見て、そう言えますか」


夜、暗い道。
あたたかいぼくの腕の中で。
泣き笑いのまま、あなたは立ち尽くしていた。
もうずいぶん永いこと、ぼくは、そんなあなたを見てきた。











さて、気楽に行きましょう。
この道の楽しさをぼくは知っています。
だからぼくはあなたを誘ってみようと思ったのです。

きっとあなたは、ぼくと歩きたくなる。





さあカカシさん、ぼくと。








ぼくと、恋をしましょう。

















2008/12/23

(行くは恋路、みちなりに)













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