よこせ。 くれ。 ほしいんだ。 それが、ほしかったんだ。
でも、もし、あのとき手に入れていたならば、僕はそれを、どうしてた?
たぶん、今の僕なら、きっと。
窮屈そうに胡坐に絡まっていた足を放り出して、それはもう向かいに座る僕の膝先まで届いているというのにお構い無しにさらに長々とこちらへと伸びてくる。
ぐりっぐり、蹴らないで、ください。
そして、うしろのソファにだらしなくもたれたまま、さぞ大儀そうに云い放たれた『ごちそうさま』は、完全に緩み切った調子であらぬ向きへ飛んでいった。
その飯を作ったのは、天井ですか。
ああとかううとか云いながら、カカシ先輩は長い腕を伸ばしてソファの隅に投げられたクッションを手繰り寄せ、もう片手で胃の辺りなんかを撫でていてそこは服の上からでもわかる、すこしぽこっと膨らんでいるようだった。
「ふえ、へんフぁい、もおふぁれないんれふハ?」
なんとかレタスの良さそうなのが今日は売っていたからそれにしたけど、こいつはどうもずいぶんはりはりしていて、今度はもう少し小さく千切らないといけないと思う。
僕は、一口大とはいかなかった濃い緑をフォークで無理矢理口に押し込んだ。
「オレの胃はねぇ、オマエと違ってそんなにたくさん喰うように出来てないんだよ。」
それにオマエ喰いながら喋んな と、柔らかなクッションに半分埋もれた声。もくもくと咀嚼する僕を見るセンパイの視線が多分に含むのは、呆れと諦めと。
「相変わらず・・テンゾウ、オマエほんとによく喰うね・・」
なんですか。珍奇なものでも見るような目はいただけないなあ。
僕は、珍しいどうぶつではありませんよ。
それに何度もあれですけど今はヤマト、です。
「そうですかねぇ・・これでも昔より喰う量はだいぶ減りましたよ。やっぱり齢ですかね。」
そう云いながらくるくると巻いて、巻きすぎて小さな赤い毛糸玉みたいになったリングイネを口へ運ぶ。
図らずも捻じ込むという表現がしっくり来る形になって、入りきらなかったトマトソースが ぼて と皿に落ちた。
ガキみたいな喰い方してる なんて云われたって、僕は悪い気はしてなかった。
もう喰えないったって、センパイの前にある皿は盛り付けた一人前がきれいに平らげられている。
気分が悪くなろうはずがない。
もともと僕の作る料理は専ら自分の胃の隙間を埋めるためのものであって、人に供されるようには出来ていない。
自分で作ったものを平らげるのはそりゃ当然、加えて今日は他人の胃袋も満たし切ったと思えば溜飲も下がる。
作って、作った端から全てが消費される。 これぞイエメシの醍醐味ってやつだろう。
ちらっと食卓に視線を走らせれば、自分の皿とセンパイとの間にどかんとデカく出したシーザーサラダの残りは喰い切れないものでもない。
もっと食べてください とかも云う必要無し。
僕は無言でサラダボウルを引き寄せた。
きっと、この人はきっと、僕より少々胃が小さいんだ。