君の部屋
「・・・なんでさぁ、」
先に口を開いたのはカカシの方だった。
「なんで、好くないですかー なんて ・・・訊くのよ」
気色を害したのか、ただ問うているのか、わからない。
全力疾走したあとのような、心許無い浮遊感。
答えようにもその余裕がない。
調息のすべを心得るはずの自分たちが、息を切らしている。
そんなことばかりに気をとられて、そこに何某かの感情を読み取る余裕が、まだ、なかった。
「・・・なんか、カカシさん、いつもより、・・・静か、だったんで」
荒い息のまま、思ったとおりに答える。
「静、か?・・・・・・オレが?」
「・・・」
疑問や行き違い、取り違えに満ちた会話。
僕は常、それらをやり過ごすために、笑うよりは物憂い顔つきをしてみせる。
やがて、それをそれより不安げに見ていたカカシが、あー、と呟いた。
「なるほど・・・、そーゆーことねー・・・ あはー、バレちゃった」
カカシが笑う。ごろり、と転がって下から抜け、ティッシュの箱に手を伸ばす。
何枚か抜き取ってその箱を投げて寄越したあとも、悪びれた様子もなく、時折くつくつと笑っては肩を揺らしている。
僕も、汚れた性器を適当に拭った。
今ここで真剣に拭いたって、べたべたの残滓が薄紙を絡め取って煩わしいことになるのはわかってる。
僕がわかるのは、所詮そんなことぐらいだ。
まったく、わからない。
でも、『好くない』なんて暗に、でも面と向かって匂わしてくるなんて、いくら敬うべき年長者、同じ性を持つもの同士とて自らの沽券に関わる。
第一、わからないところで笑われても、僕はおもしろくない。
白い背に、翼竜の名残をじっと見つめる。
視線に振り向いた顔は、困ったような、喜んでいるような、変な顔だった
。
(続)
2008/03/14
(わからない)
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