雪崩れた感情を取り繕おうにも、ふたりきり。
 
 云わずとも解れ。
 今の自分はあまりにも狭量だ。

「手・・・、離せ」

 己の愚かさに温度を失う指先、それを包み込もうとする遠慮がちな手。
 今は、そのあたたかさが余計に自分をみじめにした。

「離しなさいよ・・・」

 ヤマトがことさらに力を込めているわけではない。
 振りほどくことが出来ない浅ましさ、温みが恋しいのは自分なのだと思い知る。

 それでも、これ以上みっともない真似をしだす前に離してほしかった。


 ゆっくりと腕を引く。

 ゆっくりと逃げる。

 大きな手に力がこもる。ゆっくりと。


 逃れようとする。

 掴まれる。

 引き抜こうとする。




 ・・・抜けない。





 そのうちにヤマトの握力はカカシの手を握りつぶさんばかりになり、


「痛・・・っ!オマエ、痛ったいよ!離せ!!」
「ああ、すいません」

 パッと左手を離された反動で、カカシの身体が右に傾く。
 するとすかさず右から伸びてきた左腕が腰に巻きついた。

「ちょ・・・!何すんの!」
「何もしませんよ。でも、話を聞いてもらうまで離しませんけど」

 体勢を立て直すひまもなく膝の上に引き寄せられて、思わず声を荒げる。
 カカシはヤマトの不敵な物言いにキッと彼を睨み据えた。

 そして睨まれたヤマトもまた神妙な面持ち─、

 かと思いきや、何とヤマトはその目を意地悪な猫のように細めてニヤと笑っているではないか。

 あっけにとられたカカシは数秒後、己の不覚を呪う。




 キスされていると理解するのに、時間がかかるってどういうことだ。

(続)






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2009/09/25