(at the doorway to the night)











それでもオレはうまくやったとおもう。

希望通りに灯りを消しておいた。

待ち構えられたら怖がって出てこないんじゃないかと思って、先に風呂に入らせた。

オレが部屋に戻ったときには、ひどく怯えたような目を向けられたけど

闇の中でくちびるだけは、ずいぶんぴかりと光っていた。

術を遣って他の誰かになってやってもいいけど、そう云ったら怒られた。

それならそれで、 感想を述べてもらうことが目的ではないから、オレのやり方でやったまでだ。

それでもオレはうまくやったとおもう。



極薄く筋肉のついた背中が弓なりにしなるのを、それでも力を込めて強引に引き寄せた。

努めて健全なセンセイの声に、色事の吐息を混ぜて囁いて。

鼓動がいつもより数段大きいとは感じているけれど

高鳴るのは自分も同じだと手をとって教える。

緑玉色の目元は少し落ち着いたように伏せられた。


視線は落としたまま、目をあわせようとはしない。

頤をひっ掴んでこちらを向かせるのも悪くはないけれど

そんなに無理を強いるほど、この行為は恋ではないから。

くち、かわいいねェ。 でもここはためらうところ、キスは無し。

全身をこわばらせて緊張を隠さないあたりも

まだまだおまえはこどもだよ。


腰に回した腕に力を込め、肩に置いた手は背筋を辿り、下へ。 

詰まった呼吸の再開を促してやる。 ホラ、死んじゃうぞ。

熱のこもった小さな息の固まりを、いくつもやり過ごして。

肩の先も手首も啄ばみながら、力を抜く手助けをする。

不似合いに色っぽいくちびるの隣に、オレの唇の熱を預けて。

耳飾りの穴の小さく開いたあたりに、大人の余裕で薫り高い睦みの言葉を聞かせて。


我を忘れて本気で身体をぶつけたら、たぶんその気はなくとも壊してしまう。

まだまだ、こども。


でも、ま、オレは大人だから。


襟の合わさったあたりから指を這わせて、肌が露わになるよう、ゆっくりと剥いてゆく。

指で、口で、つつくように愛撫し、手のひらを吸い付かせる。

緊張で冷えた身体に温度を与えながら滑らせて、言葉で撫でた。


「可愛いなサクラは。 かわいい。 かわいいよホント、お前は。」






――――――






もっと、いやらしく犯されるかと思っていたから

今のこの状況にはすこし拍子抜けするような。

月の明かりの差し込む部屋は、考えようによってはロマンティックで、くすぐるようなささやきまで浴びせられて。

こんなのって修行のはじまりに相応しくないんじゃないの。

なんだか締りが無いんじゃないの。

わざとらしく滑るように手のひらと指が身体を這って、ああ、それでもこれは私を味わっているのかな。

好い香りがするし、すべすべでしょう?

修行だってわかっているけど、どうせカカシ先生だけど、それでも男の人に隙だらけだなんて思われたくなかった。

肌も髪もとびきりに磨いてきたの。

キスされたら、紅、とれちゃうかな。

だったらそれはしないでほしい。

せめてこれぐらいは残してほしい。

だってもうすぐ私は裸になる。

瞬間は緊張するけど、撫でて、さすられて、舐められて。

力は抜ける。 吸い取られている。

でも、まさか、意識までは溶かされまいと思っている。



こういう夜は、恋しい人に与えて過ごすものよ、ほんとはね。

自分が今、していること。 

これからすること。

得るもの、失うもの。

しかしそれはきっと、予想とは違う。

第一、あの夜に失ったものの大きさを考えれば、私の身体の痛みなんてのはほんのちっぽけなものに過ぎない。

取り戻すための手段。 

強くなりたい自分のために、この夜はある。




窓から、あの夜と似た月が見える。







(続)        














2007/07/23

(心の在り処はばらばらでも、それは紛れも無い初夜のはじまり)


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