でも願わくば世に蔓延る愉しみは余すことなく。
はは。
平気でそんなことを考える自分の暗黒を嘲笑った。
荒い呼吸を隠したいのか、せっかく開きかけた口を噤み、あーあ、眉間に皺まで寄せて。
胸郭が忙しなく上下しているから、わかる。
センセイは隠そうとしても隠し切れないと思うぞ、それ。
わかってはいたけど、なんか、やっぱり強情だなぁ…
ま、いいけどね。
膝裏を掴んで胸の方へと足を畳む。
もちろん、ずるいやり方だとわかっていて、そうする。
予想通りの きゃ という、かわいい悲鳴を聞いて、薄ら笑いのまま舌を突き出しべろりと舐め上げた。
快感を探るようになるまで、逃げるのは許さない。
右膝を肩に担ぎ上げて、左の腿は押さえつけて。
右の手はわき腹を撫でるだけだけど、逃げたらこの手で責めるから。
すべてお前のためだと嘯けば、その目は恥ずかしさに怒って困ってよくモノを云う。
でもサクラ、本当なんだなぁコレが。
愛された体は愛することを覚えるんだぞ。
こんなことしなくたってつながれるけど、今日は特別。
あんまりオレ、こういうことしないんだけど。
でも、今日は。
柔らかい刺激で、やさしく、やさしく、柄でもないことを。
最初の日を、特別に思わせてやろうと思った。
舌の先を柔らかく尖らせて、拓かれる前の肉を舐る。
舐め取って、舌でこじ開けて、キスをするように。
せっかくだからゆっくり味わせて。
まだ男を知らない身体。
逃げる腰を抱え込んでわかりやすい快感を与える。
本当に、本当に、ココロを込めて舐めてた なんて云ったら笑っちゃう?
でもホント、特別なのよ、オレにこんなことされたオンナなんてのは。
ね、サクラ。 もうそろそろしたいんだけど、いい?
泣声寸前のサクラを離して寝台から降りた。
一人分の荷重から開放されたスプリングが軋み、安っぽい音を立てる。
気づいたサクラが潤んだ目を薄っすらと開けて、こちらを見ている。
痛い視線を意識しながら、下着から自身を掬い出す。
んー・・・・
あ、あれ・・・?
いや、反応が愉しくてつい前戯に時間かけすぎた。
それでも扱き上げればそれはすぐに硬さを取り戻すわけ。 当然。
ねえ、視線が痛いヨ。
そんなに、見ちゃって。 ムードも何も無いじゃない。
笑いそうになるのをこらえながら顔を上げる。
何ともいえない顔で見ているのは、オレ? それともコレ?
青ざめて見えた顔が、今度は赤く頬を染めている。
「・・・咥えてみる?」
わざと下卑た云い方を聞かせたら、唇を噛んで震えるみたいに頭を振った。
ま、ここで嫌がらなかったら、嘘だよね。
今日は、いいよ。
あんまりいじめるのもかわいそうになっちゃうしな。
そういうのはまた、そう、他の男で練習すればいい。
下着とズボンをまとめて蹴り脱ぎながら、寝台に上がる。
すっかり弛緩した細い身体を片腕に抱き込み、伸ばしたもう片方の手で夜具の下に忍ばせてあるはずの避妊具を探る。
己が好い思いをしようとは今、微塵も思わない。
ただ、眼前の敵にとどめを刺すときと同じ、何ともいえない安堵と昂揚。
それがもしかしたら獣欲とすり替わるなんてのは、長く忍やってりゃ当然のことなんだ。
ごめんな、サクラ。