悲しんでいる
失望している
欲だけに駆られている
もうどうでもいいと投げ遣りになる
負の感情なら枚挙に暇が無いほどに
けれどもどうやらほんとうに、たのしくてしあわせで気分がいいといった表情ではない。
とにかくもう、苦しくて痛くて、離してほしかった。
ああそうか、この人は。
この人は里が誇る強靭な忍。 その証の刻印鮮やかな逞しくしなやかな腕。
その正しい腕が私のまちがいを酷く責めた。
揺さぶられて途切れがちな思考を必死で寄せ集め、考える。
悲しくもないのに目尻から流れる涙に、望むらくはふたりが惑わされぬよう。
そう、別に悲しくはないの。
今は腕がぎちぎちと痛いから、さっきまでひどくキツかったところに痛みをそれほど感じない。
ただ、なにをされているのかは、ものすごくよくわかった。
痛みなのか、もしかしたら快感なのか、それはあまりわからなくなった。
さっき見たものが、引きずり出されてまた埋められる繰り返しの感触。
突かれて逃げ場を失った泣き声が、バカみたいに開けっぱなしの口から逃れていく。
何なのか、何のためなのか、全てが無意味に思えた。
そう思った途端、腰を振ってそれを繰り返すこの人の下で、徐々に侵食してくる、これは恐怖。
動きが止まった。
腕は、ほどいてもらえた。
首筋に温かい唇を受ける。
怖がったら、おしまいだ。
大きく息を吸うと、ひう と情けない音が出た。 吐く息は細く震えた。
首と耳たぶとうなじのあいだのあたりに、気を抜けばきっともっと苦しむような甘え方。
先生の銀の髪はふわふわと汗の匂い、もしかしたら抱かれたことを後悔させるような。
それだけは、イヤ。
恐怖に呑まれたら、私は何もかもに負けてしまう。
――――――
苦しそうに仰け反らせた咽笛に雑なキスをする。
オレは痕も傷も残さないように、乱暴を。
あいかわらず涙は流れている。
落胆と悔恨が最高潮に達したところで、オレはもうなんだか動けなくなった。
これ以上動いたら、イっちゃいそうだった。
サクラの、ふんわりと好い匂いのする髪をかき上げて顔をうずめ、そのあたりの全てにキスをした。
仕方ないから、駄々を捏ねるガキみたいに額を擦り付ける。
小さな耳たぶに話しかけたかったけど、謝るのか? それともこの行為をひとことで肯定するような何かを?
結局何を云うべきかわからなかったから、口惜しくてぱくと唇ではさんだ。
オレが顔を上げてもまだ、この子は泣いているんだろうか?
――――――
私を助けたのは他でもない、小さくて間抜けな音。
ぱく って、・・・ねえ、かかしせんせい、ちょっとくすぐったい。
耳、食べないで。
ええと、ほら、こんな時は、
怖がっているはずがないってまず自分にわからせるには、どうするんだっけ?
小さく鼻をすする音が すん と響く。
練習したように。
いつものように、さ、どうぞ。
私はわたし、涙を流したままでもにっこりと。