咄嗟の判断で上体を起こす。
その判断が忍としては決して間違ったものではなかったと思わせる程度に、穏やかならぬ空気を滲ませたひとことを聞いた。
しかし遅れをとらなかったはずの反応と同時に見せつけるように大きな放物線を描きながらカカシの肩越しに手甲が抛られ、俺の上体が完全に起き切る寸前、ヤツの指はついと俺の左の肩口を刺した。
喰い込んだ一点をふたりが見つめる。
さらに俺は、まじまじとヤツの顔を。
「なんだってんだよ……」
指先が制すのは、動きの基点となる関節とそれに繋がる骨、覆う筋肉。
わずかに込められた力の効き具合は絶妙、こんなときに限って無駄に忍で無駄にエリートだ。
いちいちたいした男だとオレは妙なところで感心する。
まぁ今の俺の口元はへの字に曲がってて、賛辞を送る顔には到底見えちゃいねぇんだろうけど。
「動くなって云ったの・・・聞こえたでしょ」
その声音、なんだか知らんが今この男は何かに本気らしい。
「いいから、黙って見てろよ」
吐き捨てた言葉とは裏腹にカカシは特段悪びれたふうでもない。
緩く持ち上がった唇の片端に刷かれたのはヤツのいつもどおり、いかにも軽薄で満足げなうすら嗤い。
ベッドの上、俺の腹の上にまたがって膝立ちのままなんのためらいもなく行われてゆく一連の動作を見送る俺の表情には、呆気という表現がさぞかし似合っていることだろう。
その金属音が今はやけに耳障りだ。
器用に片手だけを使って、カカシがベルトを緩めていく。