(ぼく と こいつ と かこ と いま)
激しい後悔が、仲良く手をつないだ混乱と一緒になってウフフアハハと駆け巡る。
もともと、この人間を知らないヤマトではないのに。
あの時分、まだ医学生であった大蛇丸は、実はヤマトの遠縁にあたる男だ。
周りの大人には幼児児童の行動認知に関する学のためと称していたらしい。
やれサンプル採取だ、経過観察だの言っては家に上がりこみ、大蛇丸はヤマトを、―その当時の『テンゾウ』を、しょっちゅう<お遊び>の相手にした。
そして幸か不幸か、その頃には無垢な子どもだったテンゾウも、「変な人だなぁ」とは思ってはいたものの当時はそれを楽しんでいたのだ。
とんでもない。今考えればあれはとんでもない<お遊び>だ。
そしてこの春、助手だか下僕だかわからない眼鏡の男を連れて、大蛇丸はこの木の葉学園に赴任、不運にもその年の新入学生だったヤマトと再会を果したというわけだ。
「ここでは私もキミと同じ一年生よ。よろしくね、私のかわいい実験体さん・・・」
廊下ですれ違いざまに囁かれた言葉。
よみがえる幼き日の悪夢にヤマトは恐怖した。
それはこの男がふたたび身近になったことで、希望に溢れる高校生活への夢さえ潰えたかに思えるほどに。
しかし一方で、これは幸運なことではないだろうか、学生生活特有の流れる日々の速さは怒涛の勢いで恐怖の淵を洗い、ヤマトの心は今のところ救われているのだ。
新入部員として所属する、木の葉学園ラグビー部。
ヤマトの一日は、起きたら、部活。 すこし寝て(授業中に、だ)部活。
寮に帰って、風呂入って、メシ喰って、寝て、起きて、また部活。
先輩部員から散々なかわいがりを受ける日々はこうして、すでに記憶に薄い過去の云々を、健やか過ぎる泥のような疲れもろとも押し流していった・・・
実際、この数ヶ月の間、養護教諭と生徒というつきあいに限って言えば、今のところ危険な目にはあっていない。
もちろん、部活動の最中にひどい怪我をして、選択の余地なく保健室に担ぎ込まれることも少なくなかったのに、だ。
しかもここは男子校。
この、ある意味特殊な状況下において、掃き溜めにツル とまではいかないが、女装の麗君はミステリアスで背徳的、なんて言い出すヤツも中にはいて、『保健室の大蛇丸先生』はなかなかに人気者だった。
2008/06/19
(おさらいの巻)
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