(おきまり その2)
しかし、やはり、この男に油断してはならなかった。
聞いたひとことに耳を疑う。そして、自らすすんでここに来るべきではなかったと深く後悔する。
「え・・・」
「え、じゃあないのよ。問診したら、次は触診。当然でしょう?」
こともなげに言ってのける養護教諭の顔。ネコは剥げかかっているではないか。
頭の中では黄信号が点滅していた。危険だ。危険すぎる。
それでもどうしていいかわからずにウロウロと視線をさまよわせるヤマトの耳が、ギコ、と耳障りな音を聞く。
あっと思った次の瞬間、大蛇丸がキャスター付きの椅子ごとこちらに滑り寄ってきた。
「脱げないなら、脱がせてあげようかしら・・・!」
わずか十数センチ。
蛇(しかもオカマ)の迫力に ひぃ と漏れそうになる情けない声を必死で呑み込む。
「い、いい、い、いいです・・・じぶ、じ、じぶんで、じぶんで・・・」
「あら、そう・・・・・・残念」
泣きそうになりながら、シャツのボタンにヤマトは手をかけた。
今ここに豆腐があれば、早速その角に頭をぶつけて死んでしまいたい気分だ。
のろのろとはずし終わって手を止めると、大蛇丸からは よく見えないわ と、もっともらしい苦情が飛んできた。
おそるおそる、シャツをはだけ、この数ヶ月ですっかり筋肉をつけた肩を抜く。
「あっらぁ・・・大きくなってぇ。それに若いコの肌ってホント、とってもきれい・・・悪くないわねぇ・・・」
大蛇丸はなにごとか呟いて、うっとりとため息をついた。
(うわぁぁ・・・、え、今なんて・・この人・・・今なんてった? 「そそられるわぁ」って言った・・・よ ね ??!)
ここで気を失えば、後に待つのは耐え難い恥辱に違いない。
意識を持ち直し、今にも獲って喰われそうな恐怖を忍ぶ。
若い体躯を這い回る無遠慮な視線に耐え、ヤマトはおそるおそる、しかし早くこの場を収拾させんとたずねて言った。
「先生、ぼ、僕・・・なんか、病気、ですか」
「・・・さぁ?」
(さぁ って・・・!)
「私も専門の医者じゃあないから・・・もうちょっとよく見てみないとねぇ」
世の常は、この状況でも平等に作用する。
嫌な予感ほど、的中するんだ。
「ねぇ、下も脱いで頂戴」
誰か、助けて。
2008/06/19
(きゃーー)
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