(このはなしのおわり そしてはじまり)













「そんなにしんねりむっつりされちゃあ、好い男が台無しよ・・・ねぇ、私の可愛い・・・」

 くい、と足と揃いの色で塗られた爪で持ち上げられ、ヤマトのアゴが上る。
 当然だ。 その爪は長く、抵抗してアゴを引こうものなら、皮膚を抉りそうなほど尖っていた。

「『テンゾウくん』・・・」
「―――っ・・!」

 大蛇丸はククと笑い、涼しげな声で続けた。

「心筋梗塞、とか」
「しん・・・」
「そう、心筋梗塞・・・そういうのってなにも老人だけの病気じゃ、ないのよねぇ」
「しんきん、こうそく・・・」
「さっきは言ってなかったけど、息苦しいとか、あるんじゃないかしら」
「・・・!!」

 告げていない事実まで言い当てられて、医学の知識のないヤマトは少なからず動揺した。
 交えて触れた膝から大蛇丸の手が這い上がる。

「鼠蹊部の触診も・・・してみないことにはねぇ」

 今、ボクははっきりいってピンチだ。
 ヤマトは身震いした。
 『心筋梗塞』 か 『お医者さんごっこ』 という、ありえない二者択一を迫られている。

 自分の身体のどこに そけいぶ があるかも定かでない。否、落ち着けばわかろうものも、この状況では難かった。
 しかし、ここは学校内の保健室。
 これ以上の身の危険を感じたらすぐに逃げ出せば、近くには職員室もある・・・ どうやらそこまでは理解が及んだヤマトであった。


「・・・っ!」

 意を決して立ち上がり、思わず前へ一歩のめる。
 バックルを緩め、じりじりとジッパーを下ろす。
 破廉恥な<ごっこ遊び>の末に、それが頓死の前兆だとわかったら、それこそ絶望するしかないのに、可愛そうなボク!

 緩んだベルトに手をかけて、間近で見ていた大蛇丸の舌がのたうち、じゅるり と音を立てた、

 その時。



「あーあーあー、なぁにやっちゃってんですか、大蛇丸セーンセ」




 間延びして、気の抜けたような声。

 いつの間にか戸口から顔を出して、中を窺う人物がいた。
 長身を少し折るようにしてドアをくぐり、そこに寄りかかるようにして立ったのは元・ラグビー部の、3年生。



 はたけ、カカシ。













2008/06/19









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