「今日は先輩にしてはずいぶん早いですね」
「にしては、ってのは余計でしょうよ・・・オレだって一応やることあんのよ。っていうかオマエ、なにも床で寝なくても」
ソファがあるでしょ、とあごを向けたその先、事務所の奥まった一角には黒光りする応接用のソファセット、ル・コルビュジェのグランコンフォールが鎮座している。
しかしヤマトはただ肩をすくめるばかりだ。
「あのソファでゴロ寝はちょっと・・・まずいんじゃないですか」
まずい、のか?
近代建築の三大巨匠と呼ばれる先人の遺産に遠慮でもしているのだろうか。
それともただ単に、寝心地の問題かな。
「大いなる快適」のその名の通り、ソファの座面は腰掛けるに広くたいへんゆったりとしたつくりだが、いくら三人掛けとはいえ、男の図体をごろりと収めるには多少窮屈かもしれない。
シャープな印象を与えて美しいクロムの外枠も、寝ぼけて足でもぶつけたら痛そうではある。
それでも床よりはましだろうと考えつつも人は人、本人が黙って寝床の撤収をはじめたのだからカカシもそれ以上は何も言わず、机の上に並ぶCADモニタの起動作業をはじめることにした。
洗面台で顔を洗っているヤマトの後ろ姿をちらと盗み見る。
あーあ、寝癖なんかつけちゃって。
昨日は終日外にいたからよく知らないけど、アイツはずっとここでデスクに向かっていたんだろうか。
ノーネクタイで着たドゥエボットーニは多少カジュアルな印象ではあるが、さすがに宵越しでは必要以上によれよれだ。
今日は申し渡し程度の仕事をして、さっさと帰るつもりなんだろう。
しかし、まぁ。
(久々に、まともにアイツの顔見たね・・・)
まったく出鼻をくじかれるような出来事からはじまった決戦の日の朝。
思いがけず何日かぶりでふたりきりになった妙なドギマギも手伝って、なんだか無性に頬が熱い。
(続)
2009/09/16