「オマエ、オレが好きでしょ?じゃあやっぱり帰らない」
オレは出来るだけの猫撫で声でアスマの耳元に囁いてやった。
普段なら甘く聞こえるその言葉がすべてのはじまり。
アスマの視界から消えて、0.3秒。
水色のタオルケットを力いっぱい引いて、0.7秒。
アスマには今、寝台の上の天井が見えている。はず。
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そして話は冒頭に戻る。
わけのわからないことを言い出したヤツに、俺は歯向かう気力も失せた。
「動いたらダメだよ、アスマ」
ああもう動かねぇよ。めんどくせー。
ぐうたらなガキンチョの口癖まで飛び出しそうになる。
足元掬われてずっこけさせられた無様は何度でもアタマによみがえり、口元は歪む一方だ。
畜生が。憶えてやがれ。つうかなんだよ、何だよコレ。
行動の意図と何某かの感情を探ろうと、色違いの、改めて見ると実に奇妙な双眸に見入る。
しっとりと俺を見返す両眼。
かっ開いた瞳孔は少しばかり潤んだような光を湛えて、それどころじゃない殺気を差し込ませて、おっかない。
(怖いねぇ、何だってんだ)
わかったことはどうやら何も、おそらく目の前にいるはずの俺すらまともに映していないということ。
こういうのは手前の都合だけ、いわゆるところ<処理するように>抱かれに来たときのコイツのツラだ。
まあそれはそれで構わねぇし、それ以上ってのもコイツ相手じゃ無いに等しい。
よくあること。お互い様。
今日はしかしどうにも、いつものとは違ったはじまりだと感じざるを得ないわけで―。
「アスマ」
呼ばれ、気づく。
俺は、見過ぎていたらしい。
「アスマ、そのまま見てて・・・・・アスマ」
繰り返して呼ぶから、ますます視線を外せなくなった。
遅れて脳に届いた疼かせるようなカカシの声は半ば懇願するような響きをもって、煩わしいのは御免だと引っ込もうとしていた俺の意識を掴んで引き摺り、振り回す。
激昂した狂気か、欲情の萌しか。
白い肌の上、両のまなじりに昇る朱は綯い交ぜになった感情の昂ぶりを伝えて余りある。
俺を見据えたまま、カカシはその右手をおもむろに下穿きの中へと這いこませていった。